間質性肺炎(その2)


 
肺は、酸素を取り込む肺胞という小さな組織が多数集まってブドウの房のような形をしています。肺胞と肺胞の隙間を間質といいます。肺炎は炎症の場所によって2つに大別されます。細菌感染などで気管支から肺胞に至る空気の通り道に炎症が起き、化膿して膿が溜まる肺炎を肺胞性肺炎(一般的な肺炎)といいます。これに対して、間質性肺炎は間質に炎症が起きる病気の総称で、進行して炎症組織が線維化したものは肺線維症と呼ばれます。この2つの肺炎は治療方法が異なるため鑑別が必要です。
間質性肺炎の原因は、関節リウマチや多発性皮膚筋炎などの膠原病、職業上や生活上での粉塵(ほこり)やカビ・ペットの毛・羽毛などの慢性的な吸入、病院で処方される薬剤、漢方薬、サプリメントなどの健康食品、放射線照射など様々です。また原因不明なものを特発性間質性肺炎といいます。KL-6やSP-A、SP-Dは肺胞壁を構成する肺胞II型上皮細胞に特異的に発現するため、間質性肺炎と非間質性肺炎の鑑別に有用な血液検査として用いられます。
KL-6はSP-A、SP-Dに比べて特異性が高く、特に薬剤性間質性肺炎、特発性間質性肺炎で高い陽性率を示し、細菌性肺炎や肺気腫などの他の肺疾患ではほとんど上昇しないと報告されています。ただし、肺腺癌や乳癌、膵癌などの悪性腫瘍で高値となることがあり注意が必要です。また間質性肺炎の活動性を反映するため、活動期、非活動期の判断に用いられます。
間質性肺炎の特徴である「パチパチ」、「パリパリ」という音が胸部で聞こえるかどうかの聴診を行います。この音は髪の毛を少しつまんで捻る音やマジックテープをはがす時の音によく似ているので「捻髪(ねんぱつ)音」「ベルクロ・ラ音」と呼ばれます。自覚症状は、呼吸困難(息切れ)や咳嗽(せき)が主な症状です。咳は多くの場合、痰を伴わない、乾いた咳(乾性咳嗽)が出ます。息切れは最初は階段や坂道を昇った時に感じる程度ですが、進行すると呼吸不全の状態となり、着替えなどの動作でも息切れが出て、日常生活が困難になることもあります。症状の進むスピードは間質性肺炎の種類によります。特殊な病型を除いて、息切れや咳などの症状が出はじめて、日常生活に支障を来たすようになるまで数年程度かかります

症例

68歳男性、身長165㎝、体重45Kg。
2年前に間質性肺炎の疑いと診断される。

(病院の検査結果:KL-6 1038、CRP 0.56、血液中酸素量 93−94:単位省略)

自覚症状は、咳、息切れ、血圧(110、60)大便1日1回、小便5回、夜間1回、口渇。
既往歴は、10年前の悪性リンパ腫と舌癌。

桂枝加厚朴杏仁湯を1ヶ月服用、血液中酸素量 97-98。
3ヶ月服用後、KL-6 1008、CRP 0.09、血液中酸素量 95。
4ヶ月服用後、KL-6 878、CRP 0.04、血液中酸素量 95。風邪を引き体調崩す。食欲が減る。薬方を人参湯に変更し、2か月後にKL-6が769まで下がり、レントゲンの影も減ったが、肺の水が増えていた。その後真武湯変更したが、再び風邪を引き血液中酸素量 94KL-6 843、CRP 0.68。桂枝加厚朴杏仁湯に戻し、現在も継続中、KL-6が801で肺の影は変わらない。この方の間質性肺炎の原因は、悪性リンパ腫治療の骨髄移植による免疫異常が原因。(Dr.より)
この文章は、漢方医学雑誌「漢方の臨床」に投稿したものです。