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漢方勉強会無門塾発表(2015年4月‐2016年3月 北里大学)

2015年06月16日

畑の中の三陰三陽(少陽病)

無門塾 鈴木 寛彦

少陽病

卯月。1ヵ月を要し柴胡に漸く芽がでた。赤紫色の見るからに繊細な葉っぱ。これから始まる強敵雑草との戦いがとても心配である。

皐月。気温が上昇し、牡丹、芍薬、当帰の順番で開花となり、畑では一番色鮮やかな季節となる。雑草の勢いはまだそれほどではないが、気を緩めていると夏の時期に大変なことになる。枯れてしまう柴胡が出てくるのもこの時期。その原因は土の中にある。雨が少ない為、植物たちは水を求めて根をのばす。一見地上部の成長速度は微少であるが、目に見えない地下部は、激しい水の争奪戦の為、根と根の戦いがさかんに繰り広げられている。この時期の植物の動きは、「傷寒論的」で言う少陽病期に似ている。病気の進行が一見落ち着いたように微少に見えるが、実は中で進行している(少壮;さかん)のが少陽病期である。柴胡は、地上部は大きくなるが、その根は2年目の収穫時期であっても細く小さい。ましてや1年目は大変細く小さい。地面を掘ってみると、雑草の根がびっしり柴胡の根を取り巻いた。逆にこの時期雨が多いと根の成長が悪く、収穫量が減る。

「本病は、既に初発にして陽勢太甚なる太陽の表位を離るるが故に、反ってその病状は微少なるが如しと雖も、実は、太陽に比ぶれば病勢進行し、更に一級を増せる者なり。是、本病に少陽の名ある所以也。」(傷寒論講義:奥田謙蔵著)

根が小さいということは、乾燥に弱い。まして柴胡の地上部は根の10倍の大きさはある。その巨体を乾燥から守るため体内に油を一杯溜め込む。乾燥した葉っぱに火をつけると、めらめらとよく燃えるのもそのためである。この精油が、人の肝臓を含む胸郭内に溜った汚れた油を溶かし、サイコサポニンで乳化させ消化器官へ排出させてくれる。「胸脇苦満」に少陽病の代表生薬「柴胡」が働く理由がこれである。柴胡がよく育つ静岡の山々では、温かい海風と、富士山から吹き降ろされる冷たい風が交差する。柴胡が治す熱状「往来寒熱」は、育った環境から習得した賜物であろうか。

少陽病の意義および病位を明らかにする提綱

少陽病の病たる、口苦く、咽乾き、目眩めく也。

傷寒論中の少陽病は、太陽病、陽明病の後に来る。症候や治法は既にそこで多くが述べられているため主に其の病位、病勢を明らかにしているに過ぎない。少陽病の病勢は、積極性で病期は幅広く、虚証は「表」に実証は「裏」寄りとなる。

少陽病期の主症状

胸脇苦満、食欲不振、渇、咽乾、嘔気、嘔吐、心煩、口苦、耳鳴り、目眩、白苔、往来寒熱、身熱、咳嗽、胸痛、腹痛。脈は弦、緊、細。など。

少陽病期のみに応ずる二味の薬徴

「柴胡・黄芩」 「柴胡・枳実」 「柴胡・芍薬」 「柴胡・人参」 「柴胡・甘草」 
「黄芩・芍薬」 「黄芩・竹節人参」 「黄芩・大棗」
「枳実・朮」(茯苓飲、枳朮湯)
「橘皮・生姜」(橘皮湯、橘皮竹茹湯、茯苓飲)
「栝呂実・薤白」 「栝呂実・半夏」(栝呂薤白半夏湯)
「石膏・竹節人参」(木防已湯)

病邪が、第1ステージ(3日)を潜り抜け、第2ステージ(5、6日)の少陽病期に侵入してくると戦場は胸膈内に移る。胸郭内の臓器は、西洋医学的では肝臓のあたりで、「少陽病期の主症状」は当に肝臓病を患うときに出てくる症状に似ている。太陽病では、発汗させて病邪を外へ押し返そうとし、裏(腸管)まで侵入を許した陽明病期(8,9日)は瀉下させて一刻も早く病邪を追い出そうとする。しかし、少陽病期では、病邪が汗や、便としても排出させることが出来ない場所にいるため、発汗、瀉下は禁忌となる。それ以上侵入させないように、じっと耐えている状態となる。しかし、実際は見えないところで激しいバトルが繰り広げられている。この状態を少しでも有利にするため、「消解(しょうかい)」という方法をとる。是が少陽病期における治病原則となる。解り易く言うと、攻めずに防戦して病邪の弱体化を待つ戦略である。戦国時代の豊臣秀吉の小田原城攻めに似ている。

傷寒論で言う「少陽病」は、太陽病(表)と陽明病(裏)の間を埋めるとても幅広い時期である。表的少陽病証(太陽病に近い少陽病証で例えば柴胡桂枝湯、葛根黄連黄芩湯、五苓散)や裏的少陽病証(陽明病に近い少陽病で例えば柴胡加竜骨牡蠣湯、大柴胡湯、柴胡加芒硝湯)という表現もあり、多くの薬方が顔を出す。その主症候は、先ほど述べたように胸膈内の症状が中心で、口の苦味、のどの渇き、めまい、胸脇不快、胃弱、心煩、動悸、心痛、喘咳、弛張熱で、心胸間のわだかまりを除くことが主治となる。「少陽病」の中心となる柴胡剤では、基本的に胸脇苦満があり、疳が強く色黒の子供であれば小柴胡湯。赤ら顔で汗かき短気であれば柴胡桂枝湯。二本棒、ねくらは四逆散。衰廃、臍上悸、渇、頭汗があれば柴胡桂枝乾姜湯。驚、臍上悸、便秘、神経症であれば柴胡加龍骨牡蠣湯。心下急、強実、便秘は、大柴胡湯。古方ではないが胸苦、化膿症、アレルギーの場合は十味敗毒湯となる。また、柴胡剤以外の少陽病期の薬方では嘔吐、悪心は小半夏加茯苓湯。心下痞、悪心、嘔吐、腹鳴は半夏瀉心湯。下痢、腹痛、発熱、渇には黄芩湯。胃弱く、強い疲労感は後世派の補中益気湯。炎症と充血のある古びた熱には黄連解毒湯。顔赤黒く、気分落ちつかず、便秘は瀉心湯。性的神経症、逆上感は桂枝加龍骨牡蠣湯。哭、欠伸、強い煩躁は甘麦大棗湯。衰廃、不眠、貧血は、酸棗湯。立ちくらみ、動悸には苓桂朮甘湯。脈結代、心動悸は炙甘草湯。心痛、咳嗽は栝呂薤白白酒湯。激しい喘咳、渇、汗は麻杏甘石湯。のぼせて空咳は麦門冬湯。吐、便秘は大甘丸。滋潤し便通は麻子仁丸。難なく用いて薬局便秘薬。胃腸をシャキットするのは熊胆となる。

小柴胡湯 柴胡桂枝湯 柴胡桂枝乾姜湯 大柴胡湯

柴胡加竜骨牡蛎湯 四逆散 半夏瀉心湯 桂枝加竜骨牡蠣湯

苓桂朮甘湯 麻杏甘石湯 小半夏加茯苓湯 甘麦大棗湯

黄芩湯 瀉心湯 黄連解毒湯 麦門冬湯

炙甘草湯 麻子仁丸 酸棗仁湯

まとめ

  • 病位    :少陽病
  • 提綱    :少陽病の病たる、口苦く、咽乾き、目眩めく也(提綱とは、事の主要な点をあげること)
  • 主発現部位 :表裏間=口から胸郭内諸臓器のあたり
  • 病勢    :積極性=病期は幅広く、虚証は表に実証は裏寄り
  • 主症状   :胸脇苦満、食欲不振、渇、咽乾、嘔気、嘔吐、心煩、口苦、耳鳴り、目眩、白苔、往来寒熱、身熱、咳嗽、胸痛、腹痛。脈は弦、緊、細。
  • 治病原則  :消解
  • 二味の薬徴 :「柴胡・黄芩」「柴胡・枳実」「柴胡・芍薬」「柴胡・人参」「柴胡・甘草」「黄芩・芍薬」「黄芩・竹節人参」「黄芩・大棗」「枳実・朮」「橘皮・生姜」「栝呂実・薤白」「栝呂実・半夏」「石膏・竹節人参」

(参考文献)

  • 漢方フロンティア 田畑隆一郎著  源草社
  • 漢方サインポスト 田畑隆一郎著  源草社
  • 傷寒論講義    奥田謙蔵著   医道の日本社
  • 傷寒論講義 研究 塚田健一

静岡県静岡市葵区東草深町22-1 むつごろう薬局 薬剤師 鈴木寛彦