不妊症の方に漢方薬をお出しするときに、「身体を温める食べものと冷やす食べ物」についてお話することがあります。近頃、生姜が若い女性のブームになっていることでも分かるように、体を温めるものを必要としているのでしょうか。夜はビールにワイン、朝食はコーヒー一杯か、よくてパンとバナナとヨーグルト、一日中冷房のきいた部屋でパソコン仕事では熱が作られるわけが無いのです。また、ストレス社会は、絶えず脳を働かせているため上焦を熱し、疲れを取るための砂糖や果糖の摂り過ぎは子宮、卵巣が位置する下焦を冷やしていきます。陰証瘀血の持ち主が増えているのも生活スタイルの変化が影響しているのでしょう。当たり前の話ですが、漢方薬を服用するだけで全てが解決するのではなく、縄跳びの勧めと、身体を冷やす食べ物を減らし温めるものを積極的に採るように伝えています。
この原稿を書き始めた9月の下旬は、朝夕は肌寒い日も多く咽頭痛の風邪がはやり始めていますが、日によっては30度を超えてきます。『傷寒論』で言う太陰病が始まる時期となります。店先の駿府城外堀に根を張る芍薬と牡丹は茶色く枯れてきます。まだまだ元気がよいのは、静岡トウキ(当帰)、安曇野キハダ(黄柏)です。また、もう少し経つと佐渡オケラ(蒼朮)が、とても可愛らしい真っ白な花を咲かせます。自家常備薬も柴胡桂枝乾姜湯から、小建中湯となるのもこの時期です。身体が冷えを感じる状態を「寒」「冷」「厥」といいます。『傷寒論』での「寒」は、悪汗発熱、往来寒熱、背微悪寒がそれで、陽証に登場し、「冷」は陰証期に於ける他覚的な冷えの状態に用いられ、「厥」はつきる、のぼせる意味で「寒」「冷」の病状がきついものを厥寒、厥冷といいます。
太陰病の冷えは、日によって30度を越えるこの時期に似て、余熱のような熱感を併せ持つことがあります。金匱要略で言う八味地黄丸の足心の煩熱や、小建中湯の手足煩熱、温経湯の上熱下寒がそれです。以前不妊症のお客様で、陰陽瘀血の漢方を色々使うこと1年、なかなか結果に至らない方に、「靴を脱ぎたくなる、布団から足を出したくなる」との訴えを目標に八味丸1ヶ月でご妊娠された例がありました。
陰病の治病原則は、温散で裏(腹中)を温めることを行います。『金匱要略』、腹満寒疝宿食病篇の大建中湯は、「心胸中、大いに冷え痛み、嘔して飲食する能わず、腹中寒え、上衝して皮起こり出で見れ、頭足ありて上下し、痛みて触れ近づくべからず。」といい、心腹両方が冷えて痛む状態で、蜀椒と乾姜をもってその冷えをとります。身体を温める食べものでもこの両者は最も温めるほうに入り、中国研修で出された、癖のある山椒としょうがのスープを飲んでとても元気になったことを覚えています。乾姜は、しょうがを乾燥させたものですが、食品の柿や、生しいたけを日干しで乾燥させると温める食べ物に変わります。日に干した布団はふかふかで温かくなるように、当帰も3ヶ月間、半日陰にしてほどほど日にあててから湯もみを始めます。これが太陰病の温め方になります。また、身体を冷やす食べ物であっても、煮炊きして熱を加え温かいうちにいただくことや、塩押しをして日を経ていただくと身体は温まります。蜀椒は、下焦の虚寒を温める働きがあり、乾姜は陽気を通わし中を温めます。
中略
同じく太陰病で、腹中を強力に温める薬方は、赤丸があります。『金匱要略』腹満寒疝宿食病篇に「腹中寒氣、厥逆する」とあります。厥逆は、厥寒、厥冷より冷えが進んだ状態で、烏頭、細辛が陳寒を温め、寒氣厥逆を治します。烏頭は陽気を救い、細辛は温めて寒気、欬を治します。この赤丸はアレルギー性鼻炎に著効を得ることが多いのですが、大寒でも気温が氷点下になることが少ない静岡市街では、烏頭、細辛の出番が少なく、むしろ三島ブランドの柴胡が引っ張りだこになります。余談になりますが、私が始めて漢方生薬の無農薬栽培に挑戦したのも柴胡でした。三島の近くの函南町山の頂上付近にある畑の気温は昼夜の差も激しく、まるで少陽病期の往来寒熱です。中国大陸での自然環境がそれぞれの漢方医学体型をつくった様に、寒い地方には温めて代謝を高める漢方薬を、暑い地方には発汗して冷やす漢方の出番が増えるのではないでしょうか。そして温暖な静岡の気候は、柴胡を選び、日本の象徴である「和」をいただく和法をもって多くの方の疾患を治癒しています。食事も同じです。南国の果物は身体を冷やし、寒い地方の食べ物はよく身体を温めます。
話を戻します。烏頭とペアーを組んだ細辛が、当帰と組むと「手足厥寒脈細にして絶せんと欲する者」の当帰四逆湯で、不妊症の多くの方が「内に久寒」がありますので、専ら当帰四逆加呉茱萸生姜湯が多く使われます。この薬方中には、大棗が多く胃の血流をよくし、表寒を温めしもやけに効果的で、当帰、芍薬は寒冷によって起こる腹痛(疝気)を治します。厥冷は太陰病の呉茱萸湯で、「吐利し、手足厥冷し、煩燥し、死せんと欲する者」と『傷寒論』少陰病篇第319章に登場します。この手足厥冷の原因は胃寒にあり、胃寒は胃の機能を低下させ胃内停水となります。よって、呉茱萸で胃を温め、ひね生姜をもってその水を小便に導き、手足厥冷を除きます。同じ厥冷の四逆湯との鑑別でも分かるように、本方の決め手となるのは上行の勢いである頭痛で、激しい頭痛には特効薬です。当帰四逆加呉茱萸生姜湯しかり、本方でめでたくご懐妊された例があることから、温める食べ物の指導の重要性が大いにあると思われます。
また、太陰病の定綱は、「腹満して吐し、食下らず、自利益甚だしく、時に腹自ら痛む。もし之を下せば、必ず胸下結鞕す。」と言い、虚満です。腹痛、腹満と言えば私の虎の子、小建中湯の出番となります。『傷寒論』では、「腹中急痛すべき者」「心中悸して煩する者」といい、『金匱要略』では、「虚労・・・手足煩熱し、咽渇き口燥く者」「婦人腹中痛む」といっています。小建中湯は、衰えた中焦の機能を建て直す意味があります。中焦が衰えていると、姿勢が猫背になり、声が小さくなり、疲れやすく、貧血気味になります。また、周りの目がやけに気になり時には虚勢を張ってがんばって見せるのですが、長続きはしません。緊張が内臓の筋肉を引きつらせ、緊張性の腹痛に苦しみます。助けるために気血が内に集まり手足にめぐらず煩熱を起こします。ひどい方は夏冬問わず起きやすいのですが、冬は冷えている場合が多いです。この熱は虚熱で、膠飴の甘味と芍薬を持って緊張を緩め冷えと痛みを改善してきます。また、桂枝、甘草はのぼせに働くのですが本方の場合、芍薬が多いためか頭までは上らず、心中悸して煩することを抑えます。
中略
朝食をパンからご飯へ、コーヒーを番茶へ、南国のバナナを干し柿に、ヨーグルトを漬物や味噌汁に変えていただき午前中の体調が非常によくなった方、疲れなくなった方、冷えが改善してきた方が実に多いことに実は私自身が一番驚いています。また、現代の若い女性は太陰病の裏(腹中)を温める漢方薬を必要としているのでしょう。温経湯、建中湯、当帰芍薬散、苓姜朮甘湯、人参湯が、年100人の御懐妊の方の薬方の8割を占めています。田畑隆一郎先生は、生薬の働きを大きく8つ(流れる、下す、潤す、固める、散じる、温める、軟らげる、除く)に分けています。胃腸を温めるものとして膠飴、人参をあげ、二味の薬徴は、「胃の働きを助け脾胃の血脈を通わせ大補薬となし、激しい腹痛を治す」(漢法フロンテイア)とあります。脾胃の血脈を通わせ温める膠飴、人参に下焦の虚寒を温める蜀椒、陽気の流れをよくする乾姜を組み合わせると大建中湯になります。またその他、血分を潤すことによって流れをよくする阿膠、水気の逆行を下す茯苓、血を和し、寒を散じる当帰、水の動揺逆行を軟らげる生姜、小腸の熱を除き小便を利す通草、それぞれその働きの結果、血流が増してお腹が温まるのです。生薬の個性を知り、証にあわせられたとき漢方の効きを実感できると思います。この原稿をやっとのことで書き終えた10月の終わり、そろそろ駿府城外堀にも、少陰の時期が訪れようとしています。
参考文献: 薬徴 (田畑隆一郎著 源草社)
漢法ルネサンス (田畑隆一郎著 源草社)
漢方第三の医学 (田畑隆一郎著 源草社)
よくわかる金匱要略(田畑隆一郎著 源草社)
漢法フロンティア (田畑隆一郎著 源草社)
今年も、会場にて漢方相談をさせていただくことになりました。漢方にご興味ある方、どうぞご相談ください。
赤ちゃん待ちのすべてのカップルに贈る
Fine祭り2011
「ひとりじゃないよ! 不妊 ~ 知っておきたい、男女のカラダ&こころの話 ~」
- 2011年11月3日(木・祝) 10:00~16:30(予定)
- 会 場 日経ホール (大手町 収容人数610名)
- 主 催 NPO法人Fine
詳しくは、http://j-fine.jp/matsuri/2011/matsuri.htmlをご覧ください。
抑肝散加陳皮半夏芍薬と不妊症
東邦大学二階堂名誉教授に誘われて長野県安曇野市を訪れたのは、2008年7月初旬であった。先生が安曇野に移り住んで薬草研究会を地元の農家の方と立ち上げたのだ。二階堂名誉教授とは2001年の東邦大学での漢方フォーラムからお世話になっていて、私の師田畑隆一郎先生と大の仲良しであり、懐の深さには大変引きつけられるものがある。そんな先生からの希望もあり、生薬栽培のお手伝いをさせていただくことになった。個人的にも長野県は私のあこがれの土地でもあり、お世話になった方も多い。また、蕎麦には目がない私にとって、戸隠の蕎麦を頂く楽しみも加わる。空気良し、水良しの最高の環境に芍薬や当帰が育っていくことを想像するだけで、心が躍る。芍薬は2003年に東邦大学から頂いた大和芍薬を、むつごろう畑にて育て、その一部を5年後に収穫し、株分けをしたものである。いわば孫株をお返ししたことになる。その時の奮闘記は、漢方の臨床第55巻12号(2008)で詳しく書かせていただいたのでご覧頂けば幸いである。当帰は、2007年に収穫した種から苗を作りお送りしたものである。麻布松柏堂医院の中村篤彦先生から薬草作りを教わり、見よう見まねで出来上がった思いでいっぱいの芍薬、当帰の嫁入りである。
不妊症に力を入れている私たちにとって、芍薬、当帰の品質とその性質を知ることはとても重要である。化学的ではないが、それを知ることは子育てと同じで、自分の手を使って育ててみることが一番だと田畑先生は言う。そこから生まれる感覚が漢方のセンスに繋がるのではないかと感じる。
医師・薬剤師リレー治験録(86)
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題:当帰四逆加呉茱萸生姜湯と建中湯と柴胡桂枝乾姜湯
昭和50年、冬の朝。底冷えする田舎の小学校の講堂で、少年はいつも決まって渋り腹としもやけに悩まされていた。足の裏からの冷えがお腹へとつきあがり腹痛となり大便をもよおす。この少年、格好つけのやせ我慢タイプ。冬でも半袖半ズボンで過ごし、夏はアイスクリームに冷たいジュースでいつもお腹の中は水でガボガボ。根気続かず疲れやすい。20年後、冬の畑仕事で、長靴の底から寒さが上がってきてやはり腹痛。言わずもがな桂枝加芍薬湯、ところが当帰四逆加呉茱萸生姜湯の証である。平素から腹内に寒冷の水毒がこもっていて、外からの寒さが加わり、腹痛、頭痛に苦しめられる。「手足厥寒、脈細にして絶せんと欲する者、内に久しく寒あるもの」と傷寒論はいう。本方の脈細は、外気の寒さから身を守るために血管を縮めたための`細`で、厥陰病篇に顔を出し、「脈微にして絶せんと欲する」の通脈四逆湯と鑑別が必要である。また、少陽病虚証に位置するため、陽明病の入り口のわずかな逆(背微悪寒)の薬方「脈滑にして逆する」の白虎湯と比較している。白虎湯の`身重く`は、当帰四逆加呉茱萸生姜湯の疲れよりは遥かに軽い。当帰を主薬に置き、桂枝湯で外気からの寒さを防ぎ、桂枝湯中の大棗を倍量させることにより表に縮む血分を滋潤して順通下降させ、木通は当帰、桂枝、細辛と水血を緩め温めて利尿し厥寒を治す。また、呉茱萸は生姜とペアーを組み脾胃の気と水を温散下降し水の動揺逆行を和し`内に久しく寒あるもの`を治す。貧血気味の顔色で、頭痛持ち、冷えてお腹が痛み、しもやけになりやすい、腰痛があり、足の付け根が突っ張り、南国の果物や甘物が好物な方を目標に私は処方を決定する。また、寒い季節では服用して2-3日で体が温まるといわれることが多い。名の知れた登山家のお客様に、遭難しかかったときに奥様が飲んでいた本方を服用し凍傷にならずにすんだと感謝された。運動不足で甘いもの好きな現代人の体内は余分な水分でいっぱいであり、水は体内をよく冷やし、体外はエヤコンでよく冷やされる。まさに、婦人科の病気を作りやすい環境であり、当帰四逆加呉茱萸生姜湯の出番が増えている。
中略
少年は、中学生になりバスケット部に入った。体育館が無い学校であったので、冬の朝練は非常に寒さが厳しく、ここでもまた腹痛。加えて、過度のジャンプと背丈の急成長による両足膝の成長痛が始まった。この頃から思慮深くなり、緊張すると腹痛となり、手足の平は熱くてよく汗をかく。物音と匂いに敏感で、香水の匂いに酔ってしまう。時々心臓が重苦しく、急に鼻血が出ることもあった。短距離タイプであった為、疲れやすく、部活ではいつもベンチを暖めていた。この少年につける薬があるかというと、金匱要略に言う「虚労、裏急し、悸して衂し、腹中痛み、夢に失精し、四肢痠痛し、手足煩熱し、咽乾き口燥く者」の小建中湯はいかがなものか。本方を膝の成長痛には使用した例は無いが、本書「畑の面々その2」に登場した17歳マラソン選手の筋肉の炎症と貧血が改善された例や気弱な受験生が本方を服用し集中力が増して難関大学に合格した例はある。小建中湯の主薬は、飴である。飴は能く胃の気を助け、脾を和し、腸胃を寛にする。また血分を寛にするともあり、多く食べれば必ず歯を損じるとある。師田畑隆一郎先生にこの飴の大切さを教えていただき、先生自家製の飴のおかげで助けられたお客様は数知れない。好奇心旺盛で単純な私は、すぐに飴作りに挑戦してみた。畑の師匠である東京麻布松伯堂医院の中村篤彦先生と共に。朝早く中村先生の作業小屋にて、まずもち米をふかし、その中に目が出始めた大麦をよく混ぜる。鏡餅の大きさに固めて、お湯を引いた浴槽の上に一晩寝かせる。翌日もち米が糖化されておいしそうな飴の出来上がりである。実はここからが大変。糟と飴を遠心分離機にて分けるのだが、コップいっぱいの飴をとり出すのに半日を要してしまった。しかもお風呂の温度が高すぎて糖化が進みすぎてすっぱい飴の出来上がり。この日は散々であった。余談では有るが、この飴作り以降、飴の魅力に取り付かれ、兄弟子の真岡の塚田先生からご紹介を受けた金沢の水あめを取り寄せたことがあった。さすが本場、もちの10倍はあろう粘りは、私の歯の中の詰め物をすべて剥がしてしまった。「多く食べれば必ず歯を損じる」を、身をもって理解した一幕であった。桂枝湯の芍薬を倍量して作用点を腹部に引き下げた桂枝加芍薬湯を引き連れた飴は「腹中急痛」に働く。「中」が意味するように、ひどく痛む腹痛には丸薬の本方でも劇的に改善される。病位は「太陰病」で、婦人の主薬当帰を加えると「婦人産後、腹中刺痛」の当帰建中湯に体を変える。「刺痛」と言うようにひどい生理痛には大変よく効く。また、当帰建中湯には、基本は飴が入らず大虚ならば飴を入れるとあり、ストレスが多く、運動不足、睡眠不足の働く女性の不妊症には大活躍である。不妊症の方に必ずお勧めしていることは、運動として縄跳び1000回と、身体を温める食事、大豆、ごはん(玄米)、ゴマなどの土に蒔いて芽が出る生命力をたくさん含んだものをとる食事である。おせち料理の黒豆は、人がまめまめしく働けるようにとの意味が含まれているようであるが、生薬のマメ科の黄耆を当帰建中湯に加えたほうが、元気が出て不妊症によい結果が出やすいのは偶然であろうか。桂枝湯を同じ親に持つ当帰四逆加呉茱萸生姜湯も、原典の通り米を醗酵して作られた清酒を水半分と煎じた方が飲みやすくなりよく温まることから、米を好む女性は体形もお米のようにふっくらして、性格も穏やかになり子供が出来やすくなるのではないかと考えている。もちろんそんな単純にいかないことも分かっている。
中略
今当に、昭和の時代が幕を閉じようとしている昭和63年の12月。少年は大学4年生となり抱いていた大きな夢を諦め、漢方の道に一歩踏み込もうとしていた。仕事においては思い込むとそれしか見えなくなる性格で、悩み始めると止まらなくなり、精神困乏し、疲れやすく、根気続かず、頭からよく汗を出し、胃内停水があった。「傷寒、已に発汗し、復た之を下し、胸脇満微結し、小便不利、渇して嘔せず、但だ頭汗出で、往来寒熱し、心煩する者。」の柴胡桂枝乾姜湯の証が既に備わっていたのである。小学生時代のアイスクリーム、冷たいジュースが大好きの果物顔(小倉重成先生の望診より)の小建中湯証の少年は、青年期で柴胡桂枝乾姜湯証に変化し、四十を過ぎて、八味丸のお世話になりつつある。そして老年では茯苓四逆湯合芍薬甘草湯に助けられるのであろうか。私が最も愛している柴胡桂枝乾姜湯主薬の二味の薬徴である「柴胡・黄芩」は胸脇苦満を緩和するが、本証の場合、発汗、下法により虚証に陥ったため胸脇満微結となり、体液不足による小便不利と渇が現れるが嘔する力は無い。頭からは体液を留める力が弱いために汗が漏れていき、体内水分量不足による心煩が現れる。本方に、陰証で多く使用される「甘草・乾姜」が入るのは、胸中を温め体力回復を早める為で、危篤の証である厥陰病で使う茯苓四逆湯や、通脈四逆湯の「甘草・乾姜・附子」の働き方に近いと考察する。夏の暑い日の午後3時から私は決まって心が落ち着かなくなり、気持ちが焦り始める。日が沈むころになると気持ちがスッと落ち着く。3時のおやつの代わりに、「柴胡・甘草」が入った甘苦い本方を使用すると、30分で気持ちがよくなり肩の力が抜ける。私は、この症状を心煩と捉え、薬方を選ぶひとつの目安としている。不妊治療においては、心の問題がとても大切になってくる。ホルモン値を始め、気質的にも、ご主人にも問題が無いご婦人に、ご家庭の事情や過去の経緯を聞いてみると必ず心の問題が隠れている。数年前に流産してからその悲しさから抜け出せない方や、仕事の人間関係によるストレスが原因となっている。吉益東洞曰く、「毒を出す」事が日本漢方の基本であるならば、涙を流すことも毒を外に出すことに含まれるのではなかろうか。ご相談中に感情が高まって涙を流す方ほど結果が出やすいのは不思議である。しかしそこに行き着くまでに要する時間は平均2時間である。
中略
亡き父がつけてくれた「寛」という文字は寛大の意味。胃腸を寛にする、膠飴が主薬の小建中湯が私の得意処方なのも何かの縁を感じてしまう。日々お客様と机に向かって相談をしていると病気の原因はストレスが根本にあるケースがほとんどである。ミスが許されない仕事や、人間関係で悩み、体が異常緊張してそれが内臓の血流を悪くしている。婦人科疾患の原因といえる「瘀血」を作っているのである。体は緊張を緩めようと甘いものを欲しがる。甘いものは体を冷やし、より血流を悪くさせる。畑で言う農薬と化学肥料の悪循環に入ってしまう。そんな時心を寛大に持っていくことが大切である。その方法は私の場合農作業になるのだが、都会ではそううまくいかない。だから私たちは、寛大な心を持ってじっくり相談に臨み、少しでも患家の心を寛にしてあげる必要がある。漢方相談とは、正しい「証」の見極めと、病めるものと心ふれあう場。師がいつも言われている言葉である。
参考文献; 薬徴 (田畑隆一郎著 源草社)
漢法ルネサンス(田畑隆一郎著 源草社)
漢方サインポスト(田畑隆一郎著 源草社)
静岡県静岡市葵区東草深町22-1 むつごろう薬局 薬剤師 鈴木寛彦

漢方のプロフェッショナルであるために
医学的な知識、食事療法と指導法、より質の高い生薬を見極める知識など、お客様へのサービス向上のため、週に一度、専門薬剤師が集まって漢方の研究会を開いています。
加えて、さまざまな研修会にも積極的に参加し、そこで得た経験を現場に還元しております。
ここでは研修レポートなど、私たちの研究活動の成果をご紹介しています。
「漢方で健康な身体に」の講演

2008年5月12日 むつごろう薬局白井憲太郎が「未来の子供の為にあなたができること・・・」を大きなテーマに講演をさせていただきました。
今、女性の身体に何が・・・冷え性・生理不順・不妊症・流産癖などの体質を改善するには? そして、アトピー性皮膚炎・喘息・花粉症などのアレルギー体質を改善するには?を考え、正しい食生活・運動などの生活習慣を含めた漢方養生について、話しました。
東邦大学薬学部での講義

去る11/14(水)、21(水)、28(水)、12/5(水)、12日(水)薬剤師鈴木が東邦大学薬学部で講義を行いました。講義内容は、「風邪」「婦人病」を中心として、具体的な処方決定までをお話させていただきました。講義を始めて5年目を迎え、学生に漢方を教える難しさから、少しずつ楽しさが出てきました。
市民講座にて講演させていただきました
9月30日沼津市戸田の市民講座「漢方で健康に生きる」にて、薬剤師 白井憲太郎が講演いたしました。講演内容を掲載いたしますのでぜひご覧下さい。
第12回日本東洋医学会福島県部総会特別講演

平成19年8月19日に福島県郡山市で開催された「第12回 日本東洋医学会福島県部総会」にて、薬剤師鈴木寛彦が特別講演させていただきました。講演内容を掲載いたしますのでぜひご覧下さい。
東邦大学2007漢方フォーラムでお話させていただきました

2007/5/26(土)の東邦大学2007漢方フォーラムにて「薬にも毒にもなる話」と題し、むつごろう薬局薬剤師 白井憲太郎による発表をさせていただきました。
北里大学と相模原市による第9回薬用植物シンポジウムにて、むつごろう薬局漢方講座を開講しました

5/26(土)に第9回薬用植物シンポジウムにて「漢方と自然のかかわり」をテーマに、むつごろう薬局漢方講座を開講いたしました。
赤ちゃんがほしい・フェスタのレポート

平成19年2月10日(土)東京新宿のスペース・ゼロにて、主婦の友主催の「赤ちゃんがほしい・フェスタ」会場にて、むつごろう薬局が、ワークショップ・漢方相談を行いました。
東邦大学薬学部においての講義

2006年10月4日(水)・11日(水)・18日(水)・25日(水)・11月1日(水)に、薬剤師 鈴木が、東邦大学薬学部の漢方の講義を行いました。
漢方フォーラム2006発表資料

2006年6月3日(土)に東邦大学「漢方フォーラム2006」にて「古方漢方の神髄 二味」の薬徴に見る駆於血剤」と題し、発表を行った際の資料を公開いたします。
北里大学薬学部においての講義

2006年1月11日に、北里大学薬学部 生薬の授業において「漢方の話」と「漢方薬局」について講義いたしました。
東邦大学薬学部においての講義

2005年10月5日、12日、19日、26日の4回に渡り、東邦大学薬学部において漢方の講義をさせていただきました。
北里大学・相模原市との共同研究スタート

むつごろう薬局は、平成17年7月1日より北里大学薬学部附属薬用植物園と共同研究をスタートさせました。
(使用する農地に関しては、北里大学と相模原市との関係により、北里大学薬学部附属薬用植物園、むつごろう薬局、相模原市が共同で実施する研究です。)
【共同研究の概要】
漢方原料植物の栽培に関して北里大学薬学部附属薬用植物園のもつ無農薬有機農業技術を利用して栽培研究を行い、むつごろう薬局と共にその製造商品化までの品質評価に関する共同研究
北里大学薬学部においての講義

2005年1月6日、北里大学薬学部において「生と死」と題して、むつごろう薬局の現場の姿漢方薬のすばらしさを講義させていただきました。
東邦大学薬学部漢方の講義

2004年10月6、13、20、27日の4回にわたって、東邦大学において当社薬剤師 鈴木寛彦が漢方についての講演を行いました。
日本漢方を世界へ -北里大学での講演から-
2004年10月23日に、北里大学におきまして講演をさせていただきました。以下にその内容をご紹介します。
現在、世間一般で漢方といわれているものの中にも、大きく2種類に分けることができます。
1つは中医学。中医学は、その名の通り中国で行われている医学で、人体を五臓六腑に分け(木・火・土・金・水や肝・腎・脾・肺・心など)、病気の原因をある程度限定しながら(例えば腎虚とか)、生薬を調合し治療していきます。こういう点では比較的西洋医学に似ています。
そして、もう1つは日本漢方です。
日本漢方は、江戸時代に吉益東洞らによって確立された医学です。日本漢方の特徴は、傷寒論・金匱要略といった原文を中心とした随証治療です。五臓六腑などの原因を考えることを止め、患者さんの訴える症状や顔色、お腹の調子を探りながら、生薬を調合していきます。このため、中医学と日本漢方とでは、生薬に対する考え方も随分違ってきます。
例えば甘草について考えてみますと、中医学では薬効を補脾益気(胃腸を補って気力をつける)や清熱解毒(熱を清まし、解毒する)と考えます。それに対して日本漢方では、急迫を主治する(身体のさしせまっている症状を緩和させる)と考えます。中医学が薬効を論理的に解釈しているのに対し、日本漢方では感じたままを表現しています。
日本漢方はこのように、自分で感じてみなければ生薬の効能を理解していくのが難しいため、机上での学問向きの医学ではありません。しかし経験を積んで、生薬の特徴を理解してくるようになると、西洋医学で見放された重症な患者さんが、面白いように治るようになってきます。また、生薬の特徴を深く知っていくためには、メーカーさんが持ってきた刻まれた袋に入った生薬をいじったり、エキスになっているようなものに触れているだけでなく、やはり自分で種から育てて特徴をつかんだり、自分で採取しに行ったりすることが必要です。
例えば身体を温める薬草は寒い地方で良く育つとか、逆に身体を冷やす薬草は暑い地方で育つとかなどが分かるようになってきます。また、当帰を育てたあとの畑では柴胡が育ちにくいとか、甘草のまわりで当帰がよく育つとか、生薬の相性がわかるようになってきます。漢方は生薬の組み合わせがとても大事なので、相性をよく理解していくことが必要です。
私達むつごろう薬局が農業に力を入れているのは、無農薬の良質な生薬を使いたいのと同時に、薬剤師自らが育てることで、生薬の特徴を深く理解していくためでもあります。日本漢方の代表的な書物には、類聚方と薬徴があります。類聚方には原文(傷寒論・金匱要略)の処方が、現代病(江戸時代)に対応できるように分かりやすく書かれています。薬徴には類聚方で使われる生薬の特徴が書かれています。この二書は江戸時代に出来上がった日本漢方の集大成といっても過言ではありません。
私達むつごろう薬局では、類聚方と薬徴を中心に漢方治療を行っています。そしてこの日本で誕生した伝統漢方を、世界へ発信していきたいと考えております。
◎農業に対する考え
むつごろう薬局が農業に力を入れているのは、『いい生薬を作る』というのはもちろんなのですが、他にも理由があります。
長い間漢方相談をやっていく中で、現代人の病気のほどんどは、運動不足によるものだということが分かってきました。また精神医学の大家フロイトは言っています。人間が自然から離れれば離れるほど、自らの欲求に抑制がかかるようになり、それがエスカレートしていくと心の病になると...。
現代人に自律神経失調症やうつ病、神経症などが増えてきているのはまさにこのためかと思われます。また、世界全体を見たとき、日本ほど自給率の低い先進国はありません。欧米諸国の半分以下です。私達若い人間が農業をやらなければ日本は駄目になります。いくらテストで良い点を取っても、いくらお金を貯金しても、食べるものがなくなったらアウトなのです。日本人の若者はそこに気付くべきです。
このように私達は、漢方と同時に農に対する考えも発信していきたいと考えております。
薬剤師 鈴木 寛彦
第55回 日本東洋医学会学術総会
第55回 日本東洋医学会学術総会にて、「紫雲膏の製剤学的性質とごま油の化学的症状について」を発表しました。以下にその内容をご紹介します。
1.はじめに
紫雲膏は、やけどや、とこずれに極めて有効な軟膏であることは、ご承知の通りであります。私どもは、紫雲膏のルーツをたどり、また、化学的な成分の融点を調べて、紫雲膏に用いる生薬の投入を考え、また製造過程のごま油の温度を上げる理由、そして、本品の軟膏基剤の組成についても深く掘り下げて、紫雲膏を製造していました。さて、紫雲膏のルーツは大平恵民和剤局方に出典されている神効当帰膏(胡麻油、黄蝋当帰)からはじまり外科正宗の潤肌膏(+紫根)そして華岡清洲の紫雲膏(+豚脂)となりました。
2.方法
セサミン、セサモリンなどのリブナン類が含まれ、安定度の高いごま油を180℃まで煮詰め、蜜蝋と豚脂を加え、240℃に上げ、撹拌し180℃に下げ当帰を投入、6分30秒油で揚げた後、140℃(アセチルシコニンの融点)で紫根を投入して、約2分揚げ、炉追し冷やして固める。(湿度の高い雨の日は避ける。ごま油に水が入らないように注意する)
※1. 240℃まで温度を上げる為、昔、刀を作る時使用した鞴による火力を応用した。
※2. ごま油の温度を上げる理由は、抗酸化物質が多く生成させると報告されている安定度の高いごま油を、より安定させ、アセチルシコニンの作用を安定的に保たせる為。
※3. 軟膏基剤の組成は、生薬の紫根と当帰を除いたものが、本品の軟膏基剤である。この内、ごま油は植物油であり、植物油と蜜蝋の組み合わせは単軟膏そのものである。単軟膏は鉱物油又は、動植物油と、るう類を合わせたもので、油脂性基剤に属する。油脂性基剤は、全ての皮疹の症状において使用可能であり、特に鱗屑結痂においては最も適した基剤である。本方が俗にさめ肌と呼ばれる乾燥肌や、ひび、あかぎれに用いられるのは、その軟膏基剤からも十分に理解できる。しかし軟膏は湿潤性疾患の水疱潰瘍により効果を発揮する。これは軟膏基剤に加え、紫根当帰の薬能によるとこが大きい。
3.薬理作用
紫根...血管透過性促進、浮腫などの急性炎症反応を抑制、肉芽形成促進、抗菌作用。
当帰...潤気、鎮痛作用、体表の血流を促す。
4.症例
さて、以上の症例からも分かるとおり、紫雲膏は火傷、凍傷、じょくそう、といった方面で独特の効果を発揮します。中でも火傷に対しては際だって著効を示しますが、ここでの抗炎症作用はステロイド剤とも異なる一種独特の効果であります。そしてその主用を担っているのは、本方の含薬である紫根であります。それ故、紫雲膏の製造においては、ことのほか紫根の抽出に神経を使う必要があるのです。紫根の抽出については、ご存じの方もおられると思いますが、主成分であるアセチルシコニンのmpに合わせるべきで、142℃を越えずに、且つ短時間で抽出します。また、先ほど申し上げましたアセチルシコニン自体が抗酸化物質でもある為、その基剤が安定していないと抗炎症作用の効果が落ちると考えられ、このことからも、ごま油を240℃に上げる必要性がでてまいります。
5.まとめ
私たちは、紫雲膏と同じく火傷やとこずれの治療で使われている生薬由来のアズノール軟膏に着目して、本当にアズレンの溶点を調べてカミツレを入れたものも作ってみました。その軟膏はたいへん色つやがよく、個人的に、より効き方も良かったことを覚えております。今日私たちは紫雲膏の作り方を通し、その過程1つ1つの意味を学びました。これから、例えばその成分の溶融点を考えて、さらに新しい発展ができればと思っております。
日本伝統医学 「古方漢方」 -東邦大学薬学部の講義の一部から-
2003年11月5日より3回の講義を持ちました。以下にその内容を紹介します。
私の薬局では師・田畑先生の教えのもと、日本の伝統医学である古方漢方を実践しております。古方漢方には「傷寒論(しょうかんろん)」という療法があります。これは、中国の揚子江の南、江南の地に起こった代表的な薬物療法です。変化のはげしい急性の病気に対応した治療を述べていて、「証(しょう)」を重んじています。私ども薬剤師は正しい「証」を見つけるために、相談に充分時間をかけています。
「証」とは何でしょう。皆様もカゼのひきはじめに服用する「葛根湯」という漢方薬を聞いたことがあると思います。この葛根湯は、〈脈が浮く。首から背にかけてこりがある。汗をかかず、風にあたることを嫌う〉などの症状が出る場合に服用します。これらの症状を葛根湯の「証」と言います。逆に、これらの証候がそろえば、たとえ神経痛・蓄膿・中耳炎であっても葛根湯でよくなります。
病気を治す為には治病原則が必要です。これは、つらい症状はどこに原因があるかを見つけることを意味します。治病原則に基づいている漢方医学を身につけることは、多くの経験と知識が必要となりますが、この日本伝統医学を受け継ぎ、伝えることが、私たちの役割と思って、これからも頑張っていきます。
薬剤師 鈴木 寛彦
漢方薬局薬剤師「仕事内容」「夢」について-北里大学 生薬の講義から-
2004年1月に北里大学において生薬の講義を持ちました。
薬剤師 鈴木 寛彦
東邦大学「漢方フォーラム」

平成5年、東邦大学の「漢方フォーラム」におきまして『不妊症に対する漢方薬』と題し、当社代表取締役 鈴木寛彦が講演を行いました。その時の講演の内容をご紹介させていただきます。
はじめに。
むつごろう薬局では、静岡県内において、富士山を望む東部地区、南アルプスを一望する中部地区に、合わせて5反(1500坪)のむつごろう薬草畑をはじめました。
目的は、「お客様が良くなっていただけるために、漢方薬の質にこだわり、無農薬、有機肥料により漢方薬を畑から研究する」ためです。
私たちが薬草を自分の手で作りはじめて、今年で7年目となります。自分の手で作り上げたものは、柴胡2回、芍薬1回、黄ゴン2回、当帰2回、地黄1回です。畑から、自然の楽しさ、厳しさを学んできました。また、漢方相談をはじめて13年がたちました。現場では、様々な相談から、人の生き方、考え方を学びました。そして多くのことを考えさせられました。今回はその中から、「不妊症」について、畑と合わせてお話をさせていただきます。
Natureへの挑戦

近年では、東洋医学・漢方薬に対する認知が社会的に拡がりをみせています。しかしながら、まだまだ漢方薬というと「神秘の力」と称されたり、一種のオカルト的なイメージを持たれている方が少なくないのが現状です。
私たちは、漢方薬が西洋医学で処方される薬品と並んで、症状に応じて上手に使い分けられることが、ごくあたりまえの日常になることを目指して、漢方薬の効能を科学的に立証しようと、日々研究を続けています。特に、西洋医学では治療の難しい、不妊症や、腎臓・肝臓病、あるいはガンなどに対する効果分析に力を入れています。
この研究の中で得たデータをもとに、世界的権威であるイギリスの科学誌『Nature』に、論文投稿を続けております。さすがに世界的権威の壁は厚く、なかなか本誌掲載とまでは至りませんが、こうした活動を続けていくことが、漢方薬の世界、ひいては、お客様ひとりひとりに貢献することに繋がっていると信じております。
第4回中国研修
2002年9月20~26日まで中国は奥の奥、内モンゴルとの境にある銀川(ぎんせん)という町に研修に行って来ました。
そこで漢方の原料となる甘草(かんぞう)と麻黄(まおう)を見学しました。甘草は多くの漢方の中に含まれ、その甘さがしょ糖の150倍であることからその名前がつきました。また醤油の甘味料としても使用されています。甘草は「薬微(やくちょう)」という本に"急迫をしずめる"と書かれています。急迫とは、さし迫って激しくちぢみ苦しむという意味。例えば急に体を動かし、汗が以上に出すぎたため動悸がして胸がつまって苦しくなる症状です。こんな時に甘草の甘さが筋肉をゆるめ気持ちを落ち着かせその症状を改善してゆくのです。現在のストレス社会には、まさにピッタリ合った成分と言えるでしょう。
話は銀川の甘草の原産地にもどりますが、写真でも少しわかっていただけると思いますが、ここは見渡す限りの大平原。遠く向こうには、白い羊の群が見えるぐらいで何もありません。また耳が痛くなるほどの静けさです。少し先には砂漠が迫っています。気温は、朝・夕で10℃。日中は25℃。乾燥した大地は私の唇をカサカサにします。このような厳しい環境の中、甘草は一面に群生していました。地上部はまめ科の特徴である、まるい葉に毛で覆われたグロテスクな種をつけていました。種は乾燥から身を守るためにか、非常に厚く、硬いので普通に土に植えただけでは、なかなか発芽しないということです。地下茎は。ほんの少しの水を追い求めるように四方八方に根を伸ばしていました。甘草の甘さの成分は、グリチルリチン。グリチルリチンは水をためる働きがあります。
この厳しい環境に生き抜く為に、甘草は乾燥にたえる技をグリチルリチンという成分を獲得することによって身につけていったと考えます。そして今私たちは、その恩恵を受けています。現在、私たちをとりまく環境は色々な面で厳しいものがあります。しかし戦後の日本がそうだったようにこの厳しい環境から生まれるものには後生まで受け継がれる本物が出来上がると考えます。(厳しい環境の中を生き抜く甘草の姿を見た事はこの研修で一番の収穫であった。)
静岡店薬剤師 鈴木寛彦
第3回中国研修
2001年5月3~6日の中国研修を終えて
今回、私達は北京から南へ300kmほど下った町、安国(あんこく)に研修に行ってまいりました。安国とは、安心する国という意味で、中国で最も農作物の穫れる所からつけられたそうです。
私達が安国に行くことになったのは、ここは農作物だけでなく、漢方薬の原料になっている生薬の栽培地としても有名な所だったからです。
北京空港から高速道路を使って車で3時間、高速道路をおりると、そこはあたり一面畑だらけの町でした。町の中心に向かう途中、薬草畑はまだかなぁと窓の外に顔を出して、まわりをキョロキョロ見渡していました。30分くらい走った頃でしょうか、あたり一面すさまじい漢方薬の臭いに包まれてきました。
驚いたことに、この町は町全体が漢方薬の臭いでプンプンなのです。"百聞は一見にしかず"ということわざがありますが、この時はまさに"百聞は一臭にしかず"でした。町中を散歩するだけで健康になれる感じでした。道端には、漢方薬の茴香(ういきょう:胃薬などに使われています)が雑草のごとく生えていました。
そしてその晩、近くの飯屋で夕食をとったのですが、その量の多さと味の油っこさに圧倒されました。いかにも胃にもたれそうだなぁ~と思ったのですが、思ったより平気でした。
中国という国は、日本と違い空気がとても乾燥しているため、油っこいものをたくさん食べることで、体の乾燥を防いでいるそうです。
さらにウーロン茶を飲んだり、とうがらしや山椒・陳皮などの薬味を料理にたくさん使うことで、油料理による胃腸障害も防いでいます。どうりで胃にもたれなかったはずです。
そして次の日、実際に畑を耕している人と交流を持つことができたのですが、すべて手作業なのには驚きました。確かに自然体といえばそれまでですが、近代化が進んだ日本人には少しつらい作業のようです。
中国という国はとても自然に恵まれており、使える土地がとても広いため、いろんな野菜や薬草が作られ、それらを料理の中にたくみに使うことで体の調子を良くしています。
あまり自然に恵まれなかった西洋人が、手術療法や検査療法、薬物治療に力を入れたのに対し、自然の生き物に恵まれた東洋人は、野菜や薬草、お茶などを食べたり飲んだりすることで、自然に健康を維持する医食同源が発達したようです。
今回の研修で、私の心に一番印象に残ったのは、やっぱり安国で食べた料理でした。観光地ではない本当に地元の人達が食べている料理です。ブタの耳やカモの頭もありました。陳皮や大棗、山椒などの薬味も入っていました。食事をするときは、お茶のかわりに漢方薬を飲んでいました。
この医食同源というすばらしい文化が、日本の家庭の食卓や全国のレストランに普及すれば、みんなもっと健康になれるのになぁ~と思いました。
沼津店店薬剤師 白井憲太郎








